インフルエンザの検査と抗インフルエンザ薬について
このページはインフルエンザ検査の待機中に読んで頂くことを想定しています。発熱等でお辛い中恐縮ですが、お子様の発熱など発熱者以外の方もお読みになって頂くことも多いため、このような記事を作成しました。
○インフルエンザの診断について
発熱や咽頭痛、咳、関節痛などインフルエンザを疑う症状と検査結果、流行状況を加味して総合的に診断します。通常、検査を行うときには既に何らかの症状があって検査を行うと思いますので、検査が陽性であればインフルエンザだと考えて対応します。検査が陰性の場合、偽陰性の可能性もあるため「検査が陰性でもインフルエンザが否定できたわけではない」ということを予めご理解お願いします。
仮に偽陰性の可能性はあったとしても、以下に述べるようにインフルエンザは原則的には自然に軽快する疾患であり、抗インフルエンザ薬を使って劇的に経過が変わる疾患でもないため、検査が陰性の場合には抗インフルエンザ薬は原則的に処方しておりません。ただし「他のご家族が全員インフルエンザと診断されていて、発熱があり検査をしたが陰性であった」ような場合など、偽陰性の確率が高いと判断した場合にはインフルエンザとみなして診断し、希望があれば抗インフルエンザ薬を処方することもあります。
○治療について
抗インフルエンザ薬の適応があると判断した場合は原則的にタミフルを処方しております(多くの医療機関がそのような対応をしていると思います)。理由は最もエビデンスが豊富であることと投与方法が安定していて調節性に優れるからです。ただし薬ですので、体質に合わないこともありえます。処方の際に、アレルギーなどは伺っておりますが、他の抗インフルエンザ薬の希望があれば遠慮なくおっしゃって頂けますと幸いです。
なお、抗インフルエンザ薬は発症48時間以内に投与することが適応と考えられておりますが、発症からの期間については主観的な部分もあるので、臨機応変に対応いたします。発症から明らかに3日以上経過していて、症状もすでに軽快している場合には抗インフルエンザ薬を処方しないこともあります。
○出席停止期間・休養期間について
学校保健安全法では「発症後5日間かつ解熱後2日」とされています。発症した次の日を0日目と数えるため、6日間は休むことになります。大人の就労に関しては法律に定まったものはありません。学校保健安全法に準じた休養期間を設けている職場が多いようですが、職場によって異なりますので、職場とご相談するようお願い致します。
○過去に報道されていた異常行動について
過去には異常行動への懸念から10代の方に処方差し控えられていた時期もあったのですが、現在「タミフルと異常行動の因果関係は明確ではない」とされており2018年には処方の差し控えが解除されました(因果関係がない、と証明することは極めて難しく、このような表現になっています)。以前は親御さんで心配される方もいたのですが、現在は既に処方差し控えが解除されていることをご存知の場合や、そもそも最初から心配されていない場合が殆どであることが分かりました。
以下は、過去に異常行動に対して報道された経過からタミフルを心配されている方のための文章と複数種類の抗インフルエンザ薬の中からタミフルを第1選択と考えているです。
もし特別な疑問・心配がなければ、以下の記事は読まなくて差し支えありません。
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タミフルは過去に異常行動に対する懸念から、10代に対する処方が差し控えられていた時期がありました。2018年に「タミフルと異常行動との因果関係は明確でない」とされ、処方差し控えが解除されました。現在、医学的にはタミフルと異常行動の因果関係が明確ではないとされており、ただでさえ発熱等で不安な状況の親御さんに新たな不安を生んでしまうだけになってしまうため、検査の待機時間中にこのホームページを読んで頂き、お聞きになりたいという場合のみ説明することに致しました。異常行動についても注意が必要だと考えてはいますが、その発生率は調査の結果、10代でも10万人あたり0.5-1人と低く、強調しすぎても不安を煽るだけだと考えられますので、異常行動だけを特別視せず、お子様がインフルエンザに罹患した際は他の感染症と同様によく様子をみるようお願いします。
○治療について
当院では、日本感染症学会の「抗インフルエンザ薬の使用について」という2019年の提言を参考にインフルエンザの診療をしております。
https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=37
以下はタミフルを第1選択にしている理由です。
まず、前提として、インフルエンザは基本的には特別な治療をしなくとも自然に軽快する疾患です。抗インフルエンザ薬の効果は一般的に「罹病期間を1日短縮する」とされております。内服してすぐに治るような特効薬的な効果があるわけではありませんが、インフルエンザという辛い疾患が1日早く治るのであれば、処方して欲しいと考える方が現実的に殆どだと感じています。
医療費や医療へのアクセスが国によって大きく違うため、抗インフルエンザ薬については国によって考え方が違います。医療に対するアクセスの良い日本では、インフルエンザと診断がついた場合には年齢や基礎疾患を問わず抗ウイルス薬を使用することが現実的には殆どだと考えられます。早期に介入することで重症化を防いできた背景があります。
抗インフルエンザ薬にはタミフルを含めて、イナビル(1回のみの吸入)、リレンザ(1日2回5日間吸入)、ゾフルーザ(内服1回のみ)、ラピアクタ(点滴)があります(分かりやすさのため全て商品名で記載)。
このうちイナビルは海外の臨床試験ではプラセボと比較して有意差を示すことができず日本のみで使われています(日本のサーベイランスでは有効性があったそうです)。当院でも過去に吸入薬を処方していたこともありましたが、インフルエンザ罹患時には吸入の手技が不安定であり(咳き込みなどに左右されてしまう)、内服の方がより確実であることから現在では吸入の抗インフルエンザ薬を原則処方していません。インフルエンザでも下痢や嘔吐などの消化器症状が起こることがありますので、これらの症状が強くて内服が不安定である場合は考慮して良いと考えています。
ラピアクタに関しては当院では点滴治療を行なっておりませんし、点滴治療が必要な場合は原則入院だと思われますのでクリニックで使用する薬ではないと考えています。点滴であり確実に投与できるため、入院という状況下では使い道のある薬だと考えています。
ゾフルーザに関しては提言内に記載されていることを理由に原則処方していません(要約しますとタミフルと比べて優越性が示されているわけではない、耐性ウイルスが懸念される、エビデンスの蓄積がない)。また内服が1回で済むといっても罹病期間がタミフルと比べて短縮できるわけでなく、嘔吐してしまった場合や有害事象が出てしまった際に調節ができないことなどデメリットがあるため、1回の内服で済むことは特別なメリットではないと考えています。ゾフルーザは他の抗インフルエンザ薬とは作用メカニズムが異なる貴重な薬です。将来的に他の抗インフルエンザ薬に耐性のウイルスが蔓延してしまった時などに期待できる薬として温存するべきであると考えています。
タミフルは提言にも示されてますように、最もエビデンスが豊富な薬です。長期間にわたって使用されている薬であるため安全性に対する懸念も相対的に少ないと考えています。有害事象として消化器症状が出ることがありますが、インフルエンザ自体の症状との見極めは難しいです。もし吐き気が強く出た場合はご相談下さい。お子さんの場合、体重で投与量を計算します。37.5kg以上の場合は大人と同じ量になります。これは他の解熱剤なども概ね同様です。
これらを理由に、抗インフルエンザ薬としては原則的にタミフルを処方しています。薬ですので、体質に合わないこともありえます。処方の際に、アレルギーなどは伺っておりますが、遠慮なくおっしゃって頂けますと幸いです。